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【怪異】の軌跡〜愛欲の輪廻Ⅲ〜

Published 08/02/2026, 10:05:47 PM

いつもご支援ありがとうございます。やっぱりなーちゃんなんだよね、ということで3作目です。

心身ともに疲弊してて出す暇がなかったものですが、まあお下品です。これ書いた時のテンション正気を疑うくらい下品です。でも楽しいんだよね。


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「…………また、戻ってきた」


 3度目の目覚めも最悪だった。記憶から身体に染み付いている。不当な罪を着せられ、ひたすらに陵辱を受け続け、辱められた最低な経験がナーディアに立ち上がれなくなりそうな不快感を与えた。

 幸いにも、と言うべきなのか、今回は致命的に折れる経験をしていない。正確には、覚えていなかった。1ヶ月間の拘留までが彼女の覚えている範囲だ。


(一定時間以上のループは、記憶が持ち越せなくなる……逆に言えば、ループする範囲は1日の数時間に限った話じゃない。ああもう、理解すればするだけ理不尽極まりないって思えてくる)


 未だに何が原因で時間が巻き戻されているのかすら、わかっていないというのに。絶望だけが粛々と、陵辱と羞恥の記憶と共に積み重なる現状に打ちのめされる。


(あーちゃんとレンちゃんを助けにいきたいけど、向こうに警官の【怪異憑き】がいる限り、手出ししたら前回の二の舞。だけどレンちゃんのハッキングも看破する相手に、なーちゃんとラーちゃんだけで戦うのは無理)


 チラリとラピスの様子を伺うが、相変わらずループ後の憔悴が見て取れた。普段はあんなにも元気なラピスも、3度も陵辱を味わわされれば衰弱するのも無理はない。


(…………そういえば、ラーちゃんはどこに捕まってたんだろ)


 1ヶ月間の拘留生活で、同行者だったラピスとは顔を合わせなかった。相手が協力関係を警戒した、という線はなくはないが、怪異憑きが女同士をわざわざ引き剥がす殊勝な戦略を取るとは思えない。

 けれど、あの記憶を自分の口から語って欲しいとは言えない。もしそれをしろと言われたら、ナーディアですら心が折れそうだ。

 次こそはラピスを守り抜き、ループを抜け出すきっかけを見つけ出す。決意を新たにしたナーディアは、新しい方針を立てていく。


(あーちゃんとレンちゃんは、頼れない。他の解決屋の人たちも、多分〝詰みセーブ〟状態で連絡を遮断されてる。どんなに時間が経っても、この状況が変わらないのはわかってる。なら、前と同じ情報収集を、行政機関に関わらない形で行う)


 仲間は頼れず、警察を含む法治機関は全て【怪異】の息がかかっていると見るべき。

 その前提で、街中にいるであろう怪異憑きを見つけ出し縛り上げて情報を抜く。そのためには――――――



「わぁ! すごーい、たかーい!」

「やっぱり、上からだよねー」


 イーディス3区、トリオンタワーにやってきたナーディアとラピス。

 首都イーディス全域をカバーするほどの導力波の送信と中継、それ以外にも多岐に渡るインフラ機能を兼ね備えた高層タワー。

 単純に情報伝達の糧となるだけでなく、高層の展望台から街全体を見渡すことができる。

 ともあれラピスは、飛行船以来に味わう空の光景に目を爛漫に輝かせている。ここを選んだのは、少しでもラピスの悪い気分を払拭できれば、という打算もあった。


「さ〜て、ザイファの望遠鏡機能を併用して、わる〜い人たちを見つけちゃうよー」


 展望台自体の望遠鏡以外に、ザイファを用いた導力望遠鏡機能で【怪異憑き】を洗い出す。

 普通の人間からは巧妙に隠れていても、怪異を観測できるナーディアのような人間の目にはしっかりと悪行が映る。現場を抑えれば、後は得意のトラップで捕縛できる。

 現状の先手ばかり取られる状況を突破するには、次回のループに持ち込める怪異憑きの情報が少しでも欲しい。そのためにザイファで映し出した街中に目を光らせるナーディアだったが、不意に集中力を乱す大きな声が聞こえてきた。


「こんにちはこんばんは! 今日は、首都イーディスの観光名所! トリオンタワーから配信中でぇす!」

(……あー、最近流行りの配信者さんかぁ)


 見てみると、チャラチャラとした風貌の若い男が自撮り棒に取り付けたザイファに自身を映し出していた。

 導力ネットを通じた配信活動は、昨今共和国を中心に認められつつある。が、ああいう風に公共の場でもマナーを無視して映えを意識する人間が後を立たず、人気と共に問題にもなりつつあった。

 地下鉄の痴漢もそうだが、使う人間の善し悪しでこうも大きく変わるのかとため息が出そうだ。


「あーもうやめやめー。怪異のせいで、ぐーたらなーちゃんらしくないことばっかり考えちゃうなー。ねぇラーちゃん、向こう行こ? ここだとうるさくて集中できなさそうだし!」

「えー、私はあの配信? 楽しそうだと思うんだけど……まあ、私がいないと寂しいって言うなら、ナーディアに付き合ってあげる!」

「もー、ラーちゃんはいつからそんな生意気さんになっちゃたかなー」


 ただでさえ、怪異への対処で頭が痛いのに、厄介そうな配信者にまで絡まれたくないナーディアは、ラピスを連れて展望台の反対側へ移動した。


「リスナーのみんな、今日はマジで期待してくれよな。スリリングでスマイリー! 最高に刺激的な配信がもうすぐ始まるぜ! 俺のチャンネルの視聴者しか見れない無様パニックは15時ジャスト、あと10分でスタートだ!」


 まだ声高に何かを話しているようだが、もう関わることはないだろうとナーディアが耳を貸すことはなかった。




「なーちゃんが出会った怪異憑きの出現地点と、予想活動範囲はこの辺り。で、怪異憑きのテリトリーは基本的に被らなくて……次の予想範囲は、あそこかな」


 それからおよそ10分後。ナーディアは自身の知識と計算を用いて引き出した観測範囲に望遠鏡で隅々まで目を通していた。

 彼女ほどの観察眼と広い視野が合わされば、10分足らずでも怪異憑きの足取りを見つけ出せる。少なくとも、怪異を追い詰めることは不可能でないとは証明できる。

 極限まで集中力を引き上げ、自分たちを時の檻に縛り付けるモノの手掛かりを暴こうとしたナーディアは、再びその意識を大きな音に持っていかれた。


「あー、もうおやつの時間かぁ」


 トリオンタワーへは、怪異憑きとの遭遇を最小限に留める慎重なルート取った。そのため、着く頃にはもう昼過ぎではなく夕方に近付いていた。今のは時間経過を知らせる鐘の音だ。

 とはいえ、集中力が一時的に途絶えたのは日常的な音だ。彼女は意識を怪異憑き捜索へと引き戻す。


 ごぽごぼごぽぽぽ……ッ♥♥


「…………えっ?♥♥」


 そのはずだった意識が、まったく別のものに持っていかれた。

 お腹から異音が響いた瞬間、ナーディアの思考は誇張なしに9割を〝ソレ〟に持っていかれた。

 だから意識するより早く内股になり、大きなお尻を両手で押さえるみっともない仕草を取っていた。つまり苦痛を意識したのは、そのポージングを終えた後だ。


 ぎゅる……ぐるぐる……ごろごろごろごろ……きゅうぅぅ〜〜ッ♥


「う゛、ぅお゛お゛ぉ゛!?♥♥ うそっ、これ……ご……ぉぉぉ゛……っ♥♥」


 異音の後に炸裂した地鳴りのような音は、紛うことなき腹の音色だった。

 突然始まったソレに全力で抗うため、太ももと膝を擦り合わせて括約筋に神経を注ぎ両手で穴を塞ぐことまでする。が、如何にナーディアが努力し、複数のループに耐えられる強靭な精神力を持っていたとしても、無慈悲に最速最大に達したソレを留めるのは困難だった。


(なんっで♥♥ こんな時に……おっ、おっきい方♥♥♥ おながいだぐなっで……!?♥♥♥)


 発生源である腹を抱えたところで意味はない、と断言できるほど凶悪な衝動。言葉を憚らずに言うなら、それは〝便意〟だった。

 何十倍の下剤を摂取させられたような強烈すぎる便意が、突如としてナーディアを襲った。皺を寄せた眉間に、ムチムチの白い肌に脂汗をドバッとかいたナーディアは、慌てて声を上げた。


「ごめんラーちゃん!♥ なーちゃんお手洗に行ってくる!♥」


 返事を待つ余裕もなく、ナーディアは内股早足歩きのみっともない姿でトイレへ向かった。

 トイレはナーディアのいる場所からグルっと回った反対側だ。それがあまりにも遠く感じて、いざトイレのマークが見えた時は恍惚とした笑みが零れそうになる。

 便意に負けそうな乙女という恥の称号を背負ってでも、ナーディアは今すぐこの衝動を解消したかった。しかし、トイレのマークから視線を下に向けた彼女の目は、動揺と絶望に染まった。


「う、そ……なんで、こんなに人がいるのぉ!?♥」


 反対側から来たナーディアは気が付かなかったが、女子トイレには長蛇の列が、少なくとも展望台に来ていた人間の半数が並んでいるのが見て取れた。


「ママ……もう、だめ♥ う、うんち、もれちゃう……!♥♥」

「頑張ってユメ♥ も、もうすこし、もう少しで、おトイレいけるからね……ん゛ッぎ♥♥♥ ん゛ぐぅぅぅぅ……は、はやく、ユメだけでも……!♥♥♥」


 ちょうど人が多い時間帯だったのだろうか。並んでいる人数は10人、20人。それから先は考えるのを諦めた。

 ならば恥も外聞も捨て男子トイレを使えば、とナーディアは足を向けた。幸い、こちらには長蛇の列はなかった。


『あけっ、あけて!♥♥ あげなざい!!♥♥ 私を誰だと♥ 思っているの!♥♥ 黒月の代表♥ アシェン・ルウよ!♥♥♥ こんなっ、ところで♥♥ 恥を晒すわけにはいかないの!♥♥♥ だからあけて、はやくっ、おねがいあけてぇえぇぇぇぇぇぇ!!♥♥♥』

『……え、エルザイム公国の公女として、お願い申し上げます♥ どうかこの、憐れなジータに……その希少な便器をお譲り下さいませ♥♥ それ以外なら、どんな対価でもお支払いしますから……!♥』

『ふー、んん゛♥♥♥ 稽古を、思い出してっ♥♥ べ、便意を耐える演技をしていると、思うの……はぁ、はぁ、はぁ…………お゛ぎょおぉぉぉ!?♥♥♥ ぐ、ふぅぅ♥♥ か、怪異の脅威がぁ、これほど、だなんてっ♥♥ 聖女の力が、つうじな………………あっ♥♥♥♥♥』


 が、中から凄まじい怒声が聞こえてきたナーディアは、即座に使い物にならないことを察した。

 9割を便意との葛藤に割いた思考だが、残りの1割で行動方針を変えるくらいはできる。ナーディアは絶対に間に合わないと見切りをつけ、列を避けると展望台のエレベーターへ向かった。

 下まで行けば代わりのトイレがあるはず。そう考えていたナーディアの目は、またしても信じられない光景を目の当たりにした。


「み、みなさんっ♥ 落ち着いて♥♥ あ、慌てずに、エレベーターは、順番に使ってください……!♥♥ じ、事故の原因になりまず♥♥ オ゛ォッ♥♥♥ ぐ、だえ゛、だえなざいエレインッ!♥♥♥ 市民の前で♥♥ もらすなんてこと……!♥♥」


 エレインのような気高い女性の誘導も虚しく、エレベーターは大幅に定員をオーバーし、あと何往復が必要かもわからないほど混雑を極めていた。


「フーッ!♥♥♥ フーッ!!♥♥♥ か、考えたね♥ どんな強者も、腹の中と肛門を鍛えることは、できないィイ゛♥♥♥ けど、これも修行と思えば…………ん゛ん゛♥♥♥ あ゛♥♥♥ やっぱりむ゛り゛♥♥♥ ごれむ゛り゛ィ゛♥♥♥♥」


 そして偶然居合わせた《白銀の剣聖》のような圧倒的業者でさえ、便意には威厳の欠片もなく内股でブサイクな我慢面を晒してしまっていた。

 展望台のトイレも、下層のトイレも間に合わない。この間にも便意は第2波、第3波がやってきている。もうすぐ立つこともできなくなり、汚らしく漏らしてしまう未来をナーディアは涙目で想像した。


(……待って、おかしい。女の人ばっかり、一斉にトイレへ行きたくなるなんて、ありえない)


 だが、極限状態故に研ぎ澄まされるものもある。ナーディアの中で、逆転の集中力がハッキリと自覚できたのは奇跡に等しかった。

 状況の判断が正常にできるようになったナーディアは、最初は焦りすぎて気が付かなかった異常現象を知覚。何かがある、と視線を彷徨わせる。

 すると、展望台の騒ぎの中で自分と同じく状況を俯瞰している少女を見つけ、急いで駆け寄り声をかけた。


「アーちゃん!」

「ッ!? ナーディアさん、どうしてここに……!」


 アルティナ・オライオン。元トールズの学生で、今は母校とエプスタイン財団の2足のわらじを履いている。《エリュシオン》事件で関わった頃より大人びて、服も新調しているが見間違えるはずがない。

 ナーディアの方も色々な意味でかなり変わったのだが、向こうから認識されて助かったと胸を撫で下ろす。正直、今は説明している時間すら惜しい。


「話は後! 聞いて、これは多分【怪異憑き】の仕業だよ……んぎぃ!♥ あ゛ぁ♥♥」

「な!? ど、どうしてそう言えるんですか……お゛ぉう゛!♥♥ ぐうぅぅ♥♥」


 お互いに漏れ出しそうな〝何か〟を押し留めながら、情報交換を急ぐ。事ここに至って、ふたりはこれを単なる便意とは思っていなかった。


「はぁ、はぁ……パニックが始まる前に、大声で配信してた男がいたのっ♥ そいつの言動から推測すると、間違いないと思う♥ だからそいつが、今どこにいるかを探したいの!♥ 協力して!♥」

「……わかりました!♥ 《クラウ=ソラス》、シャードサーチ、起動!♥」


 簡潔に伝えた情報を頼りに、アルティナはシャードサーチを仕掛ける。

 クラウ=ソラスを使える彼女が空中から逃げなかったのは、もちろん途中で漏れ出る危険性を加味したのもあったのだろうが、危機的状況に立ち向かう力――――――要は怪異好みの精神性を持っているからだ。非常に癪だが、ナーディアも、自身がそう評価をされていると考えている。

 期待した通り、アルティナは即座に意を汲んで探知を開始する。クラウ=ソラスと協力できる彼女のサーチ能力はナーディア以上。時間がない今、それに賭けるしかない。


「み、見つけました!♥ トリオンタワーの構造上、存在しないはずの通路と部屋!♥ 生体反応!♥ ひとつ……!♥」

「絶対それ!♥ 今すぐとっちめよう……!♥」

「歩いては無理です!♥ クラウ=ソラスに、しがみついてください!♥」


 クラウ=ソラスもアルティナの精神が乱れたことで、制御が不安定になりつつあるが、内股早歩きよりはマシだ。

 フラフラの飛行で数分かける頃には、服が汗でびちゃびちゃになるほど焦燥していたが、おかげで限界を迎える前に扉を開け放つことができた。


「おぉ! やっと来たかー! 便意を超えた真に勇猛で気高い美少女たち、ようこそ俺の即席スタジオへ!」

「っ、さっき撮影してた配信者……!♥ あなた、怪異憑きでしょ!♥」

「ご名答〜。女の子を適当に見繕ったら何人かは怪異様のこと知ってると思ったけど、今回は見目まで特大の大当たりかぁ〜」

「ふざけていないで、早くこの騒ぎを終わらせてください♥ でなければ、迅速に制圧します♥」


 ナーディアは隠し持っていた暗器を、アルティナは《クラウ=ソラス》を巨大な盾剣に変えてチャラい怪異憑きへと要求を突きつけた。端的に、この騒ぎを収めろと。

 もっとも、この要求が無理筋なことはふたりとも承知の上だ。怪異の手先が女性の要求を聞くはずがない。簡単に言えば〝止める方法を教えろ〟という脅しに近い勧告だ。


「焦るなって。ここから配信が面白くなるところなんだぜ? 極限まで耐え抜いた雌が見せる絶望と快楽の失便顔! それをこのトリオンタワーから、大陸中の導力ネットに中継する! ああもちろん、お見苦しいものにならないよう〝中身〟はきっちり入れ替えてるけどな。そいつは出した時のお楽しみだ」

「出すわけないでしょ、そんな怪しいもの!♥ 貴方の能力は、もう視えた!♥ 指定した時間にいる女の体内に干渉して、異物を転送する!♥ それがこの苦痛の正体、違う!?♥」


 早口に捲し立てたナーディアに、チャラい男は感心感心とばかりに拍手をする。


「Exactly(正解)! いや素晴らしい、そこまで気付かれちゃあしょうがねぇ。俺は便利な能力をもらった代わりに、それ以外はガチのモヤシだ。俺を倒せば転送されたモンも消えるから、今からでも1リジュくらいは助かる可能性があるかもなぁ」

「それなら、話は簡単ですね♥ わたしたちが、貴方の下劣な目論見を打ち砕きます♥」


 性欲の対象、性癖は様々ではあるが、怪異憑きの中でもこれほど変態的な嗜好者はそういないだろう。

 今日、このトリオンタワーに囚われた人々は、彼の下劣な配信の不運な出演者だ。しかし、犯人を暴いたからにはこれ以上好きにはさせない。

 集団を巻き込めるほどの能力には、等価交換で弱みが生まれる。怪異憑きが女に向ける脅威的な膂力が存在しないなら、制圧できる可能性は十分にある。


「アーちゃん、合わせる!♥」

「はい!♥ 対象を捕らえます!♥」


 連携攻撃を繰り出すナーディアとアルティナ。しかし先の話は全て、彼女たちの動きに精彩がある前提だ。

 便意で内股になり、しきりにお尻の締まりを気にしているふたりが、比較的に平凡な身体能力に追い付けるかと言えば疑問が残る。

 まして、ひとつのミスで自身の醜態が配信に乗りかねない状況は、焦りとミスを生みやすい。これまでのどの強敵より鈍い回避を、ふたりは呆気なく許してしまう。


「はは、惜しいねぇ。次は俺のターンだ……と、その前にさっきの答え合わせをしようか。ピンク髪の子の考察は凄かったけど、ひとつだけ間違ってるところがあるんだよねぇ」

「っ、時間稼ぎのつもり?♥ そんなの」

「まあまあ聞いてけって。俺はたしかに、周りの女の腹にモノを転送する。けどそれは、君の言う物質じゃなく〝概念〟だ。そういうわけで、はい俺のターン」


 ゲームならまだしも、実際の戦闘においてターン制などない。あるとしたら、達人同士がそうならざるを得ない場合だ。

 素人に毛が生えた程度の相手に、いくら便意で動きが鈍いと言っても反撃の隙を与えるほどナーディアたちは甘くない。

 しかし男が両手の人差し指を立て、それを下げるとナーディアたちは否応なく〝ターン制〟を受け入れるしかなくなった。


 ごりごりごりっ♥ ごりゅごりゅごりゅりゅ♥


『ん゛ほお゛ぉお゛お゛お゛〜〜〜〜〜〜〜っ!?!?♥♥♥』


 ただでさえ出口が綻んでしまいそうだった強烈な便意が、何割増しかでふたりの底に突き刺さる。

 構えていた武器を下げ、膝を曲げて尻臀を両手で力いっぱい閉じる。両手を使ってお尻を左右から真ん中に、物理的に閉めることで波をどうにか乗り越えようという下品極まりない格好だった。

 便意の最高潮をあっさり更新させられ、寄り目で舌を出して悶絶するナーディアとアルティナ。絶世の美少女たちが限界便意を明け透けにしたオホ顔が大陸中のネットに生中継されてしまう。


「ま、ましゃかっ♥♥ モノじゃなくて、べ、便意ごと、操れるのぉ……!?♥♥♥」

「はい、またまた大せ〜かーい! 1回範囲に入った女の子なら、誰でも操れちゃうよ〜ん」

「な、なら。いつでもっ、わたしたちを……ち、茶番じゃ、ないですかっ♥♥」


 便意そのものを操作できるなら、今すぐできる限界に引き上げればそれで終わりだ。

 なんてことはない。能力が極限まで尖っていれば、怪異憑きに身体能力など不要だ。一度術中に嵌めてしまえば、どのようにでも調理できる。それが【怪異憑き】である。だからアルティナは、わかりきった愚問を口にしていた。


「そうだけど、配信映えって知ってる? 失便って言っても、いきなり全員が出したって一瞬楽しいだけだろ? 君たちみたいに綺麗で可愛い子がさ、わけのわからないモノを腹に抱えた恐怖と、出してしまいたい欲求に襲われながら、必死に無駄な努力を重ねる! それが俺と、俺のリスナーが思い描く究極の〝映え〟なんだよなぁこれが!」


 怪異が目にかける趣味嗜好は、女の抵抗が欠かせないものだ。

 必ず女が敗北するという因果。それを如何にして愉しく、面白く、気持ちよくできるか。怪異憑きたちに与えられた命題にして、絶対的な宿願。


「ふざ、けないで!♥♥ そんなくだらないものに、なーちゃんたちを巻き込むなぁ!!♥♥」

「そうですっ♥ 女性の尊厳を、悪魔に魅入られた貴方のような人に、踏みにじらせはしません♥」


 至極当然、ありとあらゆる尊厳を快楽のため弄ばれることを彼女たちは許容しない。

 便意を振り切り、ありったけの力を込めて大陸中の女性の怨敵に同時攻撃。


「よっと。それじゃ、俺のターンねー」


 強い意志で放たれた技はあっさり避けられ、立てた指が下げられるだけの絶望の技が返される。

 ナーディアとアルティナは、また咄嗟に両手で尻臀を押さえ込んだ。しかし段階を踏み膨れ上がる圧力は、ふたりの想定を遥かに超えていた。


 ブ~~~~~~〜〜~ッッッッッッッッッッッッ!!!!♥♥♥♥♥


「あ♥♥♥♥」


 ブボ~~~~~~〜〜~ッッッッッッッッッッッッ!!!!!!♥♥♥♥♥


「お゛ぉ゛ん゛♥♥♥♥」


 気高く美しい意思に関わらず、尻穴が盛り上がり爆音を炸裂させた。

 ナーディアは鋭敏なアナルから生じた解放感に頬を蕩けさせるが、アルティナは未知の羞恥と快感に鼻穴を開き悶絶の声を上げる。

 特大の放屁を、どんな顔でカマしてしまったのかをふたりは考えたくもなかった。そして便意の底を下げられたことで、両者ともに尻穴をこじ開けようとするモノの輪郭を掴んだ。


(これやっっっっばい!!♥♥♥♥ う、うんちのほうが、マシなやつ!♥♥♥ だしたらぜったいだめなやつが、もうそこまで来てる!♥♥♥)

(こ、これは♥♥♥ 恥とか♥♥ 外聞とか♥♥♥ 気にしてられないです!♥♥♥ 何がなんでも、ぜったいに阻止しなければ♥♥♥)


 幸か不幸か、極限の戦いの中でナーディアとアルティナの決意は結束していた。


「す、すーちゃんに、見られたくないぃぃ!♥♥♥」

「リィンさんにっ、見せられませんんンッ♥♥♥」


 介入が許されない愛しい男たちに届けるものが、無様で下品な醜態であることだけは、絶対に避けなければならないという健気な心だ。

 しかし結束とは裏腹に、ナーディアとアルティナの攻撃は速さも重さも失われていき、男の言うターンを与える度に便意操作で失便が近付きまた精彩を欠くという品性下劣な悪循環に陥ってしまう。


「ふぅっ、ふん゛ごッ♥♥ ぶごォ゛〜〜♥♥ ふぎっ、ふん゛ぎゅう゛ぅ゛う゛う゛ぅ゛〜〜〜〜♥♥♥♥ も、もれ、も゛れ゛ぢゃう゛……ゥ゛ッ゛!!?♥♥♥ お゛ながっ、ぐるじッ♥♥♥ あ゛ぁぁぁぁぁ!!♥♥♥」

「ん゛ッほお゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛♥♥♥♥ お゛ながっ、ぐるじッ♥♥♥ だず、だずげでぐだざ……い゛ィ゛ン゛♥♥♥ も゛れ゛ぢゃう゛ゥ゛♥♥♥ や、やべ、やッべ……だべえ゛……っ♥♥♥ う゛ほほ……ッ♥♥♥ お゛っお゛っ、お゛ォん゛!?♥♥♥」


 便意の波が最高段階を更新すること、実に5回。逆に言えばわずか5回で、歴戦の猛者たる少女たちは敗北を悟ってその場に蹲った。

 あれほどに強い愛があっても、生理現象の前には無力だった。髪が張り付くほどの汗を幾筋も顔に垂らし、奥の繊毛が見えそうなくらい開かれた鼻穴に、歯茎が見えるほど食いしばられた口。

 誰の目から見ても、ナーディアとアルティナは限界だった。それでも漏らしていないのは神の悪戯か、或いは気狂いの性欲を抱いたこの場の支配者しかいない。


「いやー、めちゃくちゃ頑張ったね? グランドマスターとかいう人でも、3ターンで音を上げたのに。あ、でも皇太女様は10ターンくらい粘ったかな? うーん、立場はどうあれ、偉そうにしてるかどうかの差なのかねぇ。まーそれは置いといて、次で間違いなくイくと思うから、ここまで頑張った女の子にはご褒美をあげよう」


 パチンッとチャラ男が指を鳴らすと、便意の限界に歪んだ視界にあるものを提供した。

 それを見たナーディアとアルティナの瞳には、たしかに希望が宿った。

 白い先頭でアヒルの首と顔を模し、そこに取り付けられた取っ手。中心に楕円形の穴が空いたフォルム。極限まで研ぎ澄まされた排泄欲に、それは後光が差して見えたことだろう。

 同時に絶望も与えるものだ。怪異憑きは、最低の選択肢をふたりにもたらした。


「ゼムリア大陸の子供から大人まで、みーんな知ってる便利アイテム、ポータブルトイレ……あ、おまるの方がわかりやすいか! アヒルのおまるで〜す!」

「あ、あぁっ♥♥ いや!♥♥ あ、あくまっ、さいていっ♥♥ いまさら、そんなのみせつけて……うぅ、ぅう゛〜〜〜〜〜〜♥♥♥」

「あはは、辛いよねぇ恥ずかしいよねぇ。でも今から並んでも間に合わないでしょ? だからってもう一度俺に攻撃したらその時は、外の子たちみたいに失便待ったなし! だから第3の選択肢で、これを使わせてあげる。やるかどうかは君ら次第だけどね。もし座らないなら、一度便意を引き上げてから、また下げ直してもいいけどね?」


 下げた便意をまた上げる。彼にしか使えない混乱しそうな表現が、ナーディアとアルティナには身が引き裂かれる痛みと恐怖を生む。

 再び、この地獄の苦痛に辿り着くまで戦って勝てる保証はどこにもない。いや、むしろ無様に出す可能性の方が、余程高い。

 ともすると彼は、最初からナーディアたちが不本意に漏らす光景では〝映えない〟と考えたのかもしれない。集団で生まれた光景とは異なるものを、辿り着いた女勇者たちに求めた。

 それが『おまる』だ。そしてナーディアたちには、人を馬鹿にして嘲り笑っているそのアヒル型の便器が、待ち望んだトイレに見え始めていた。


「はぁ、はひっは♥♥♥ むりっ、むりむりむりィ♥♥♥ もう一度なんてむ゛り゛!♥♥♥ おまるでいいがら、どいれづがわぜでえ゛ぇぇえぇぇぇぇぇ♥♥♥♥」

「ナーディアざんばっがり、ズルいです!!♥♥♥ わたぢも、わたしもおトイレつかわせでぐだざい゛ッ!♥♥♥」


 ふたりは最後の力を振り絞り、スカートやタイツ、下着をズラして排泄穴の周りを解放した。それでは3秒と保てない。おまるまでは最低でも5秒かかる。

 だから脚を肩幅まで広げて膝を折り曲げ、お尻をグッと両手で閉じた〝私は排便を我慢しています〟という表現を完璧、完全な形でポーズにした。

 下品すぎるガニ股で、全国ネットに乗せてはいけない涙と鼻水と涎とで染められ、ぐちゃぐちゃに歪んだ顔でおまるに近付き、取っ手を掴みながら着席した。

 カメラに映し出されたふたりの美少女のアナルは、皺が見えなくなるほど広がっていて、もうどうやって我慢しているか不思議なくらいだった。


 ぷぅうぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♥♥♥♥


『あ……♥♥♥♥』


 一際甲高く大きな放屁を全世界に響き渡らせたナーディアとアルティナは、その羞恥を受け止めきれないまま、勝手に口を開いた。


「ナーディア・レインです!!♥♥♥♥ おまるにゼリーうんちします!!♥♥♥♥ 脱糞でイぎまず!!♥♥♥♥♥」

「アルティナ・オライオンです!!♥♥♥♥ おまるで大便させてもらいます!!♥♥♥♥ 自分のうんぢでイ゛ぐ!!♥♥♥♥♥」


 そして、マヌケすぎる宣言の瞬間、アナルからピンクと銀色の〝ゼリー〟を排泄した。


 ぶっっっぼ♥♥♥ ぶりっぶりりりぶりゅ♥♥♥ むりゅむりゅりゅぶりっぶりっぶりゅりゅりゅりゅぶりゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜♥♥♥♥


「ん゛ッ゛ほ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ーーーーーーーーーーーーーーーーッ゛ッ゛ッ゛!!♥♥♥♥♥♥ ぜり゛ーう゛ん゛ぢでりゅう゛♥♥♥♥♥ げぢゅあ゛にゃイ゛グゥ゛ーーーーーーーーーーーーッ゛ッ゛ッ゛!!!!♥♥♥♥♥♥♥」


 ぶッッッッぶッッッッ!♥♥♥ ぶぼぉぉぉぉぶぼぼぉぉぉぉぉぉ!♥♥♥ ぶぴぶぴぶぴぃぃぃぃぃぃぃッ!♥♥♥


「お゛ッほ!?♥♥♥♥ お゛ぉぉぉほほほ、ン゛ほーーーーーーーッ!!?♥♥♥♥♥ お゛ッッ……へぇぇぇぇぇぇえ゛!?♥♥♥♥ う゛ぉ、う゛ほォォォォォォッッ!?♥♥♥♥♥」


 特大のピンクゼリーをおまるにぶちまけるナーディアと、小ぶりな細いゼリーを下品な音を立てながらおまるにぶちまけるアルティナ。

 そしてどちらも、限界まで引き伸ばされた苦痛からの解放感で形容し難い下品な顔を晒していた。

 それが今、気狂いが開いた全国ネットに垂れ流されている。アナルゼリーを垂れ流すふたりの顔と名前は、ゼムリアの人間に例外なく、永久に刻み付けられた。


『う゛ほお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛っ゛っ゛!!♥♥♥♥♥♥ け、け、ケツ穴イ゛ぐゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ッ゛ッ゛ッ゛!!!!!!♥♥♥♥♥♥♥』


 とても排泄物とは思えない鮮やかな色を、たしかに大便しているという無様な面でひり出していく姿が、忘れ去られる未来などあるはずがないのだから。





 トリオンタワーを中心に起きた『女性集団ゼリー排泄事件』と『全国放送おまる脱糞ゼリー事件』のふたつは、世界そのものの風紀を変質させた。

 彼女たちが漏らしたのは、単に転移された流動体ではなく能力や知識、培ってきた経験。総じて彼女たちの信念を支えるものだった。

 それを排泄してしまえば、残るのは空っぽの身体と心。気が狂うほどの喪失感を埋めるように、彼女たちは一度得た極限の絶頂に心を惹かれていった。


「みんなー、見えてる〜♥ クソ雑魚アナルのオホ顔で有名なナーディアと♥」

「こんにちは♥ 排泄する時だけブサ顔になることで知られている、アルティナ・オライオンです♥♥」


 中でも主犯と同じ配信者となり、あまりにも強烈な記憶から逃れられない者たちがいた。

 自撮り棒でザイファを掲げ、堂々と『便女』の焼印が浮かぶ胸や、女子トイレのマークをタトゥーのように入れた尻を映していく裸の少女たち。

 あの日全てを失い、屈辱と羞恥の排泄に陶酔したふたりは、怪異憑きを真似て全国ネットに自分たちのゼリー排泄を配信する下品極まりない生活を続けていた。

 一度影響された身体は、甚大な影響を周囲にも伝播していく。配信で様々な場所を巡るに連れて、全てを失うゼリー排泄の快楽に陶酔する女性は、加速度的に増えていった。


「きょーはぁ、このアラミス高等学校でぇ♥♥ ガニ股バンザイポーズで出しちゃまーす♥♥ 退学になるかもしれないけどぉ、もうどうでもいいで〜す♥♥♥♥ えへ、えへへ♥♥♥ だってぇ、みんななーちゃんがお下品なケツイキしちゃったところ、知ってるんだも〜ん♥♥♥♥」

「やけっぱちのわたしたちがお見せするガニ股バンザイ排泄アクメ♥ ぜひ、最後まで見ていってください♥♥♥♥」


 ゼムリアの歴史が、汚らしく下品な快楽に包まれて終わっていく。無情でも無慈悲でもなく、ただ品性がないだけの欲望に呑まれて消える。


 ブ~~~~~~〜〜~ッッッッッッッッッッッッ!!!!♥♥♥♥♥

 ブ~~~~~~〜〜~ッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!♥♥♥♥♥ 

 ブボ~~~~~~〜〜~ッッッッッッッッッッッッ!!!!!!♥♥♥♥♥

 ブバババブビィブッッッッボォォォォォォォ~~~~~~〜〜~ッッッッッッッッッッッッ!!!!♥♥♥♥♥


『お゛ッほ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん♥♥♥♥♥♥♥』


 ナーディア・レインとアルティナ・オライオンの名が、言葉にするのも憚られる歴史の終焉、その中心に刻んだことは、誰にも忘れてもらえないものだった。





【適格者からの回帰申請。理由・『やっぱぜんぶ当たり前になるとダメだわ。こういうのは異常だからいいんだよなー』。…………承認。全領域のデータをゼムリア時間■■■■■までリセット――――――タイムループ開始】