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【小説】堕アイスソウル奪還戦
Published 08/03/2026, 12:15:46 PM · Edited 08/03/2026, 04:49:37 PM

【雰囲気あらすじ】
怪人の種を植え付けられ肉体が怪人化し始めた堕ちアイスソウルをレッドが取り戻すための戦い。ほぼバトルで健全。※Twitterに載せたものを加筆修正し再アップしました。
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過去に怪人の大襲撃によって無人の廃墟と化したビル群の屋上の一つで2人の男が対峙していた。
「やっと来たか。待ちわびたぞ」
口元に笑みを浮かべて、かつてアイスソウルと呼ばれた男は笑う。
顔の痣は最後にレッドに見せた時に比べ範囲が広まっており怪人化の侵食度合いが伺える。もう一刻の猶予もないのだ。
アイスソウルのいまだ心の内にくすぶりつづけるヒーローとしての正義と罪悪感が辛うじて完全な怪人化を防いでいるに過ぎない。
肉体の支配は身勝手な夢を叶えたいという欲望に奪われている。
レッドを最高のヒーローに。
そして口には出さない、根底に隠れたこうなってしまった己を早く終わらせてくれという後ろ暗い感情。
レッドが己の命を奪い、弱さや甘えを捨て去った時歴代最高のヒーローになれるだろうという強い思い込み。
今のアイスソウルにはそれが正しいとしか考えられなくなっている。
そのためにこの半年近く、改めてレッドを再教育した。
弱点や弱さと向き合えるようさまざまな策を講じレッドを追い詰め、しかしトドメは刺さずに。これは師として与えた課題だ。
レッドはそれに応え続けた。
同じ手は2度は通じない事を理解し対策を講じてくる。あの楽しかった修行の日々と同じく。顔を合わせぬ時でさえ、互いの考えを読み合いやり合ってきた。
そしてとうとう怪人に染まりつつある男の望む舞台は整いつつあった。
世間がレッドにアイスソウルを討つ事を望み始めたのだ。
市民に望まれればそうせざるを得ない。それがNo. 1ヒーローというものだ。
ハイジャック電波にて行った大規模な怪人の襲撃予告。
罠としか感じられないだろうそれに、レッドならば必ず来るだろうという確信があった。否、来ざるを得ないだろう。
優しいあの男は、犠牲の可能性を見逃せないだろうと、よく知っている。
そして最高の活躍を見せてくれるだろう。
己の命が潰えるその瞬間を想像してその先を拝めない口惜しさはありながらも、最高のヒーローを己の手で完成させる事が出来る歓びに、男の冷えた心が熱を持ち震えている。正気など、もはやあってないようなものだ。
ひどく嬉しそうに笑うかつての師をレッドはまっすぐに見つめた。
もう現実から目を逸らす時間はない。
尊敬する先輩であり、師であり、大切な友人でもあるその男の変わり果てた姿に今度こそ向き合うのだと、レッドは覚悟を決めていた。
「アイスソウル…!」
「まだ、俺をその名で呼ぶのか」
言葉とは裏腹にどこか甘さと喜びを含む声色でアイスソウルは応答する。
そこから先は言葉ではなかった。
間髪入れず襲いくる氷柱を避けアイスソウルの身柄を確保しようとレッドは前に出る。
しかしすぐさま防がれ新たに発生した氷柱に吹き飛ばされた。
「ぐはっ…!」
「…レッド。なんだ?今の手は。いい加減甘えは捨てろ。くるなら殺す気で来い」
冷たい視線を注がれレッドは負けじとその目を見返す。
(もう目を逸らすわけにはいかない)
どうあってもレッドはアイスソウルに勝たねばならない。
世間がそう望んだからではない。
レッド自身がそれを望んでいるからだ。
アイスソウルを救う為に。
「…俺は、諦めてない。アイスソウルは…アンタは…まだ、市民を殺しちゃいないだろ」
レッドの言葉にアイスソウルは目を細める。
その言葉は事実だ。
アイスソウルはたびたび襲撃を行い怪人や戦闘員を指揮していても市民を直接手にかけてはいない。
だがそれがなんだというのかとアイスソウルは呆れたようにため息を吐いた。
「直接手を下さなかっただけだ。被害は甚大だぞ。見てわからんほど馬鹿じゃ無いだろう」
「…それでも…っ!」
「怪人になりかけた奴なら、今まで死ぬほど手にかけてきた」
冷えた声色にレッドは息を呑む。
その声に含まれた後悔のような色をどうしようもなく感じさせられる。
「俺を救おうなんて考えるな。そろそろ理解しろレッド。早く」
終わらせてくれ。
ひどく息苦しそうな言葉にならなかったその先はアイスソウルという男がヒーロー時代から常に抱えながら目を逸らし続けた罪悪感の塊から来るものだった。
元市民だろうが怪人化すれば構わず手にかけてきた。
それをものともしない顔をしていたが本音を言えばそうでは無い。
元親友のヒーローが悪の手に堕ち、誰かを傷つけるくらいならば殺してくれと死を乞われ討ったあの日から。
アイスソウルはずっと後悔に身を焼かれ続けている。
己が奪った命は、本当に怪人だったのか、人だったのか。
だが怪人になった人間が救われた前例はないに等しい。
まだ救えるかもしれない、まだ完全な怪人ではない、まだ若い、まだ───
救う理由を見つけようと足掻く度、救えたはずの誰かを犠牲にしてしまう。
希望や甘えなどいちいち見出す余裕を敵は与えてはくれなかった。
救えなかった死体を見るより、救った者になじられる方がずっと良い。
苦しくないわけがない。
それでももう止められはしなかった。
己の感情が理由で救えないなら、感情など不要だ。
見て見ぬふりをして、氷の男と呼ばれ始めたのはいつ頃からだったかアイスソウルはもう覚えていない。
ヒーローを半ば芸能人のように扱い始めたメディアも、それを推奨するようなヒーロー協会も、それを喜ぶ市民にもアイスソウルの考えや行動はそぐわなかった。
度重なる批判はアイスソウルの正義への自負と自信を奪い続け、いつしか自らを無価値と思わせるほどに追い詰めた。
己がやってきたことの全てが正義ではなく、罪なのだとすれば、早く断罪を。
愚直な男の胸の内に生まれた感情は自らを罰してほしいという強い罪悪感。
そして今、怪人になりつつある男はその断罪を受ける機会を得てしまった。
レッドならば、己の乗り越えられなかった罪悪感さえのり超えてくれるはず。
根拠のない思い込みで目の前のヒーローに身勝手な願いを、祈りを、秘めた懇願を託し男は口にする。
「もう一度言うぞ、殺す気で来い。生ぬるい覚悟で勝てる程俺は甘くない」
手加減をして勝てるなどと甘い事はレッドも考えていない。
しかしこの拳に100%の破壊力を乗せる事はレッドには難しかった。
傷つけず捕らえる。
これを目指さなければレッドが力任せにアイスソウルに勝利する事はおそらく可能だがその場合再起不能、あるいは最悪命を奪う可能性がある。
レッドの考えを全て見透かした上でアイスソウルの攻撃の手は緩まない。
激しい氷柱と鋭利な氷の弾がレッドの自由な行動を制限し確実にダメージを与え追い込む。
その隙間を縫って氷を纏った拳も襲いくるのだから容赦がない。
こちらが致命傷になり得る手を出すよう仕向けて来る。
長年なりを潜めていた身勝手かつ大胆な戦闘スタイルに翻弄されレッドは改めて、救助すべき対象がなければこの男はここまで強いのかとその実力を思い知らされた。
怪人化しているからではない。
本来この男の力はこうなのだ。
氷能力者によく見られる軌道や硬度の不安定さが一切ないのはこの男の日々の鍛錬から成っているものである事をレッドはよく知っている。
手強い。レッドは拳を間一髪で避け距離を取り息を吐いた。
攻撃も防御も厚い氷の壁が兼任している。
これを攻略しない事には前に進めない事はこれまでにあった闘いの中でレッドも理解している。
「レッド、あまり退屈させないでくれ…誰か一人でも俺が殺せばやる気を出すのか?」
アイスソウルの煽りにレッドは答えない。
最早言葉など意味がない。今、届くのは拳のみだ。
踏み出し、待ち受けるアイスソウルの分厚い氷の壁を力任せに殴りつける。
この厚い壁の先に、もっと先にいるこの男に届く一手が何としても必要だ。
砕けた氷の破片に目を細めながらあくまで致命傷になる攻撃をしないレッドにアイスソウルは呆れた声を出す。
「レッド、いい加減に─」
言いかけたアイスソウルの背後に強い閃光が瞬く。
「オラ死ねぇぇぇぇ!」
細めた視界に映るのはアイスソウルがかつてから気の合わないと感じていた生意気な後輩、ライトニングだった。
派手さを重視した避けやすい蹴りに当たってやる通りはなくアイスソウルはそれを避け氷でいなす。
まるで昭和のギャグ漫画のように喚きながら氷柱の上を滑っていく姿を見送りアイスソウルは怒りに満ちた視線をレッドに向けた。
「ふざけているのか?俺が用意した舞台に猿を招くとは」
「…俺は、1人じゃ絶対に勝てない。だからライトニングにきてもらったんだ」
「そこまで弱い男に育てた覚えはないな」
怒りによって無意識に溢れ出した能力の伝播で空気中の水分が凍りつきパキパキと音を立てる。
2人きりの決戦を望むアイスソウルにとって他者の介入ほど腹が立つものはない。
己を殺すのはライトレッドでなければ意味がない。
「勝手言ってんなよオッサン」
戻ってきたライトニングはアイスソウルを指差し叫ぶ。
「今は俺が!レッドと相棒なんだよ!ざまぁ!嫉妬は見苦しいぜ!」
完全なる煽りだがアイスソウルの表情に変化はない。ただ静かに視線を一瞬寄越しすぐにレッドに向けて言葉を吐く。
「…お前がそれを望むなら、仕方ない。これも、教育か」
笑みを浮かべたアイスソウルは次の瞬間ライトニングへの激しい攻撃を始めた。
先ほどよりも強い殺意に満ちたそれを見てレッドは焦りに満ちた声を上げる。
「ライトニング…ッ!」
「止めてみろ、ヒーローなら!」
アイスソウルは攻撃の手を緩めずライトニングへと近づく。直接触れて凍結してしまえば終わりだ。
最高のシナリオに入り込んだ異物を真っ先に排除せねば、不完全は認められない。
この舞台を邪魔された怒り、殺意にアイスソウルの思考は埋め尽くされていた。
激しい猛攻をなんとか捌きながらも距離を確実に詰めてくるアイスソウルにライトニングは苦笑する。
レッドに話を持ちかけた時から覚悟はしていた。
普段アイスソウルに生意気な口を叩いてはいてもこの男の実力が確かな事は子供の頃から見続けた救出動画で、現場での戦いぶりでライトニングとて知っている。
拳を避けた先には氷弾が、氷を避けた先には氷柱が、二手三手と逃げ道を塞ぎ追い詰めるその正確さにあと一瞬遅れていればと背筋が冷える。
この男と戦うというのはそれだけの覚悟がいる事なのだと実感し予想以上の苦境に息を吐いた。
「オッサンのくせに元気じゃぁねぇか!」
「口を開くな猿」
冷えた声色は普段のライトニングに接する世話焼きで口のうるさい男のそれとは違い興味のない他人に対するもののようだった。
ライトニングは目をふせてまた口を開く。
「…オッサン。本当のあんたがそんなんじゃねぇのは、俺もわかってるよ」
ライトニングは静かに肩を震わせる。
そして、顔を上げ叫んだ。
「でもサルっていうのは許せねぇなぁッッッ!!!!」
叫びと共に激しい閃光があたり一面を白く染める。
「くっ!」
まともに光の爆弾を食らったアイスソウルが怯んだのを認めてライトニングは一気に距離を詰める。
しかし腕を掴もうと伸ばした手を逆に捻られ羽交い締めにされてしまった。
「小細工はきかんぞ!」
「オッサン、忘れちゃいねぇだろうな。俺ぁ閃雷のライトニングだぜ」
悪戯が成功した時のような顔で笑うライトニングの言葉の意味を理解した時にはもう遅かった。押さえつけた身体から発せられた強い電流に襲われアイスソウルは顔を顰める。
「ぐっ…!」
「このまま意識ブッ飛ばしやがれ!!」
渾身の力で大量の電流をぶつけながらライトニングはアイスソウルの様子を伺った。
意識を飛ばせれば上々だったが自身の首を締め付ける力は緩まない。
「ぐぅ…っ!!」
「無理してんなよオッサン!」
煽るライトニングだが発電能力にも限りがあり、これ以上の電流はライトニング自身の意識を奪いかねない負荷だ。
脳が沸騰したように熱くなり強い目眩が出始める。
「ぐ…くぅ…っ」
電流を心臓に集中させればアイスソウルは止まるだろう。しかしリスクの高さからそれをすることはできなかった。
ライトニングにとって己がアイスソウルの命を奪うことはとても許容できるものではない。
「……チッ!」
数分間の攻防の末、先に折れたのはライトニングだった。
「は…もう終わりか?」
アイスソウルの余裕を湛えた笑いを含んだ声色。
所々パチパチと電流の残滓を纏い焦げた匂いをさせながらもアイスソウルは倒れない。
いくら怪人になりかけているとはいえこの頑強さと執念は異常としか言いようがなかった。
「くっそ…化け物…が…よぉ……!」
「今更何を。レッド、いいのか?仲間が死ぬぞ」
アイスソウルはピシピシと音を響かせながらライトニングの体を氷で拘束しこれ見よがしにその喉元に鋭利な氷をあてがう。
2人に追いついたレッドはアイスソウルに対してなんの言葉も返さない。
それどころか場を傍観している。
その不可解な態度が、アイスソウルの求めた最高のヒーローの取るべき行動とはかけ離れていて怒りに油を注ぐ。
「応えろッライトレッドォ…ッッッ!」
叫んだ刹那、レッドに執着するあまり隙ができたアイスソウルの首に何かが打ち込まれる。
「ッッッ!?」
「レッド!成功した!早く俺を助けろ!!!」
叫んだライトニングに合わせてレッドは足にパワーを集中させ、力強く地面を蹴り一瞬で距離を詰めた。それはアイスソウルが知るレッドよりもずっと、予測もできぬほどのスピードを伴った鮮やかなもので───
ほんの一瞬、アイスソウルはその姿に見惚れ反応が遅れた。
「ありがとうライトニング!あとは任せろ…ッ!」
No. 1ヒーローと呼ばれるこの男が場を逆転させるのはその一瞬で十分事足りた。
ライトニングの体を掴み引き剥がし逆方向に弾き飛ばすと共にアイスソウルに組みつく。
先ほどまで見つめていた景色が突然斜めになった事をアイスソウルはまだ理解できていなかった。
「…っ!?」
「捕まえた」
声の近さでようやく理解した頃には目の前にレッドの顔があった。
「やっと、ちゃんと顔見せてくれたな」
それはアイスソウルのよく知る、まるで怪人に囚われている人質を助けにきて安心させるようなひどく優しい笑顔だった。
ドクンッとアイスソウルの心臓が激しく跳ねる。
体の反応が、奇妙に鈍い事を理解してアイスソウルは動揺も露わにレッドに叫ぶ。
「俺に、何をした…ッ!?」
アイスソウルに打ち込まれたのはまだ一般に出回っていない抗怪人化血清。
話はライトニングがこの作戦をレッドに持ちかけてきた時に遡る───
ライトニングに渡された試験管をまじまじと目を丸くして見つめながらレッドは訊ねた。
「これ、本当にお前が作ったのか!?」
「まぁ。そうだな」
開発中でまだ効果の実証されていないそれはライトニングが全ての責任を負うことを条件に使用を許可されている代物なのだと説明されレッドは驚きを隠せない。
「んだぁその顔。俺は頭いいつったろ。ヒーロー育成校の研究学部首席卒だぞオラ」
「いや、意外だったもんで…これ、効くのか?」
「一般人には効かない。ただヒーローならワンチャンってトコだ…まだ成功例はないんだけどな」
ライトニング曰く、現段階で細胞テストを行った所一般人には効果は示されなかった。
しかしヒーローの力を持った人間の細胞を汚染化させたものには怪人化に対する抵抗を見せたのだという。
ヒーローパワーが血清の力で正常化される事により精神を正気に戻す可能性が見込めるのだと説明した。
「でもこれにも条件がある。俺達の力は良くも悪くも精神状態に左右されるだろ。本人が強く望まなきゃヒーローパワーは十分な協力をしねぇ」
中途半端じゃ血清も効果半減だと言いながらライトニングはホワイトボードでレッドにわかりやすく伝えるため図を書く。
「オッサンは多分戻る気なんてねぇだろう。だけどひとつ可能性があるとすんならそりゃお前だ」
「俺!?」
「お前にやたらと執着してるからな。その気にさせてみろよ。モテねぇオッサン相手ならチョロいだろ」
アイスソウルがモテないことはないだろ!と騒ぐレッドを意に介さずライトニングは続けた。
「俺が血清で話が通じるとこ迄は戻してやる。んで、あとはお前に任せる。これはプランBな。プランA、俺がシンプルに勝つが成功すれば出番なしだ」
「待て、血清はライトニングが打つのか?」
「俺じゃないと扱えない仕様だ。つぅかレッドにゃ無理だろ」
声を上げかけたレッドを押さえ込むようにライトニングは人差し指を向ける。
「あのオッサンは俺のことを舐めてる。舐めてれば油断もする。そこが勝機だ。お前相手じゃ全力でしかやらねぇだろう」
怪人の種に支配され物事の後先よりも目先の快楽を優先する今のアイスソウルならば散々煽り、レッドが意に沿わない行動をする事で油断を誘いやすいというのがライトニングの考えだ。
しかしそれは、ライトニングが相手をする間、レッドの不介入を意味する。
「…一対一は、かなり危険だぞ」
「舐めるなよ。俺だってプロのヒーローだ。今命掛けられんねぇならいつかけんだよ。手出ししねぇで任せておけ」
ライトニングの言葉を聞いてレッドは涙ぐみながら抱きつこうと腕を広げたが、すいっとよけられてしまう。
「ライトニングぅぅ…」
「情けねぇ声出すな!No.1だろうが!腑抜けてたらファンやめっぞ」
「えっ俺のファンなのか!?」
反応するレッドに口を滑らせたとライトニングは舌打ちをこぼし目を逸らす。
「お前じゃなくてライトレッドのファンなんだよ。自惚れんな」
「同じじゃん!?」
「全然違うわ。俺の知ってるライトレッドはこんな腑抜けた顔しねぇ。自覚しろよNo.1」
トン、と拳でレッドの胸を叩くライトニングの顔つきはもうふざけていない。
「任せろ。もしプランBになったら全力だ」
「言っとくが俺がマジヤバかったら絶対助けろよ!わかってんだろうな!」
「さっきと言ってること違うぞ!?」
彼らしい茶番を挟みながらもこの日のために用意した作戦は今の所計画通りに進んでいる。
ライトニングは役目を果たした。
ならばその次を託された己の役目もまた果たさねばならない。
「アイスソウル…ッ!帰ってきてくれ!」
なんの飾り気もない素直な言葉だが今なら届く。
そう信じて目を真っ直ぐ見つめるがアイスソウルは震える手でレッドを振り払った。
「よせ!諦めろと言ったはずだ!俺を早く殺せ!そんな 事も出来ないなら最高のヒーローには程遠いぞ!」
苦しげな顔は先ほどまで何を言われても余裕を保っていたアイスソウルのそれではなかった。声が届いている証拠だ。
「俺はそんなもの目指したことない!」
「…っふざけるな!勝手を言うな…!」
「アイスソウル、頼む…っ必ずなんとかなる!俺を信じてくれ!」
アイスソウルはまた氷の柱を作りだし距離を取ろうとするが、能力が上手く扱えず狼狽える。
血清が怪人の種に対して抵抗を見せパワーが不安定になっているようだった。
しかしアイスソウルを支配する怪人の種もこれを許容するわけにはいかずと働き始めた。この男を一刻も早く怪人にせねばとレッドのヒーローらしからぬ行動に対しての怒りの感情を増幅させ流し込む。
「ぐぅぁっあぁ!」
「アイスソウル!?」
自身でさえ制御が効かぬ乱雑な氷柱を発生させながらアイスソウルはよろけ、呻き声をこぼす。
しかしほどなくしてぴたりと不自然に動きを止めたかと思うととゆっくりと顔を上げた。口元には再び笑みが浮かび瞳は赤く妖しい光を灯している。
「ならば、俺の人生とは、なんだ?」
アイスソウルは気の触れたように笑いながらレッドに殴りかかる。
「お前を最高のヒーローに育てる事意外に!俺に価値などない…!」
「そんなことない!アイスソウル自身が最高のヒーローだ!なんで分からないんだ!」
「お前だけが全てだ、俺などお前の糧でいい、でなくては…お前が高みを目指さないなら!俺の生きた意味は…全て無駄だったと言うのか!?」
捲し立てるアイスソウルの声は激しく乱れ、怒りに震えているようにも泣きそうなようにも聞こえる。
法則の読めない感情の爆発のまま沸き起こる氷を避けながらレッドは言葉をかけ続けるがアイスソウルは聞き入れない。
これだけの能力の連発は肉体的に激しい負担を伴うはずだがそれをアイスソウル自身自覚しながら止められはしなかった。
魂を削るように体の奥底から湧く負の感情に支配されひたすらに身を任せる事しか出来ない。
再び厚い氷の壁に距離を取られてしまいレッドは氷に囲まれ氷点下まで下がり切った空間の中白い息を吐く。
この状況もまた、想定済みだ。
レッドの超筋力というシンプルな肉体強化能力は近接型であり長距離攻撃が可能なアイスソウルの能力とは相性は良くない。
この攻防の中でさえ嫌と言うほどに思い知らされた事実だ。
物理破壊よりももっと手早く、次の氷柱を生み出すよりも早く片付ける必要がある。
レッドは自身のスーツにギミックパーツを装着する。これもまたライトニング手製のものだ。心の中で礼を言いながらレッドは拳を強く握りしめた。
「こんな壁何度だってぶっ壊してやるさ」
地面を蹴りアイスソウルに近づき再び厚い氷を殴りつける。
先ほどまでと変わらないように見えた攻撃に一つ加わったのは暗い周囲を明るく照らす、激しいまでの炎だった。
氷を容易く溶かしアイスソウルに再び辿り着く。
「なっ…!?」
その姿にアイスソウルは目を見開く。
昔、散々レッドが口にしていた"俺が炎の能力を使えたらもっとかっこよかったのになぁ"という記憶が頭を巡る。ソウルが知る限りレッドの能力は超筋力のみのはずだった。
しかし、激しく燃える明るい光の中に現れたレッドの拳には炎が灯っていた。
「な、なんだ、何故」
「…いいだろ、これ。…なぁ、たくさん話したい事があるんだ、戻ってきてくれたら」
「…っやめろ!来るな!」
アイスソウルはなおも抵抗するが氷に炎では分が悪く先ほどよりも早々にレッドの接近を許してしまう。
そしてアイスソウルは気がついてしまった。
炎をまとったレッドの右腕に激しい火傷が伴っている事に。
「…レッド、それは、なんだ」
「能力変換の代償だ。結構しんどいんだけどさ」
レッドはなんでもないことのように告げた。
これはライトニングから事前に聞いていた副作用であり承知の上で使用したものだった。本来持つパワーを異なった能力に変換し放出するギミック。
一見便利そうに見えるそれだが適性のない能力を使う事により肉体がその負荷に耐えられず損傷する危険性の高いものだ。
急拵えのそれは肉体の保護までは出来ないゆえ、ライトニングからはあまり使用して欲しくはないと言われていた。
しかしアイスソウルがここまで抵抗するので有ればレッドも躊躇ってはいられない。
「どうしたんだ、アイスソウル」
レッドの動揺の一つない声を聞いてその覚悟の重さにアイスソウルは息を呑む。
ジリジリと皮膚を焦がし目に見えてわかるほど刻一刻と爛れていくレッドの右腕。
目を逸らしたくなるほどのそれが痛まないはずがない。
このまま戦い続ければ使い物にならなくなるのは明白だ。
「…っ」
言葉を失いアイスソウルは後ずさるが、意志に反し氷柱を発生させてしまう。乱れた感情の制御がつかず発生する氷を止められなかった。
それを排除する度レッドの火傷は増す一方だ。
「やめろ、もうよせ…!」
「アイスソウル」
ひどい火傷を繰り返しながらレッドはアイスソウルを抱きしめる。
ソウルの肉体から拒絶するように反射で生み出された鋭利な細いつららのような氷の柱がレッドを容赦なく貫くが、それでもその体を離そうとはしない。
「……レッド…」
「…俺、最高のヒーローなんて目指したことないんだ」
レッドは痛みに掠れた声で再びその言葉を口にする。
今度ばかりはアイスソウルもそれに激昂することはなかった。
レッドの傷ついた体に対する心配が勝ってしまう。
「…よせ…喋る、な…もう」
「俺は…ただ褒めてもらいたくてさ。アイスソウルが…俺を認めてくれるのが…嬉しかったから」
レッドは今まで伝え損ねてきた言葉をぽつぽつとこぼす。
「俺は…世界を守りたいって思ってるよ…けどさダメなんだ」
「…」
「俺の守りたい世界には…アイスソウルがいなくちゃ…じゃないと全然頑張れない」
レッドの言葉も、身体も震えていた。
「俺が最高のヒーローになるのに、絶対アイスソウルは必要なんだ」
その言葉がゆっくり胸に染み込むのを感じながらもアイスソウルはレッドのひどい火傷をいたわるように冷気を当てて困ったように笑った。
この半年間、レッドが取り戻したいと願い続けた、いつもの笑顔。
「…レッド、わかったもういい。俺は…」
「アイスソウル…!」
「俺、ハ」
言いかけたアイスソウルのスーツはぐぱりとその形を変えレッドに絡みつく。
「!?」
「…ッ…」
アイスソウルの意識は正気に戻っていたが肉体がいうことを聞かなかった。
レッドの肉体ごと取り込もうと種とスーツが最後の抵抗を見せ始めたのだ。
アイスソウルの肉体を逃さないとばかりに皮膚に結合し始めるそのおぞましさは言葉にならない。
ぐちゃ、ぐちゃと黒いタールのようなそれがレッドにまとわりついていくのを見つめアイスソウルは正気に戻った頭で己が招いた事態の重さを理解した。
今までの全て、己が堕ちた事さえNo. 1ヒーローであるレッドを陥れるための餌だったのだと気がつくのにはあまりにも遅すぎた。
己1人なら闇に堕ちても構わない。
それはレッドが強く輝くためなのだと信じていたからだ。
しかし今目の前で起こっているそれはまるで望んだものではない。
初めから、何一つ己の望みのために動くことなどできてはいなかったのだ。
それは深い絶望だった。
もう何もかも諦めてしまいたくなるほどの。
しかし、アイスソウルは抵抗した。
指一つ動かせない中、絶望しかないのだとしても諦めるわけにはいかない。
抗え、と己に命じる。
この体は、この心は己のものなのだと。
レッドが認めたヒーロー、アイスソウルがここで誰も救えなくてどうするのだと己を叱咤した。
レッドを自らのせいで失う事だけは許し難い。
何があってもそれだけは認められない。
その強い意志がほんの微かに種の支配を上回った。
アイスソウルは震える人差し指から振り絞るように氷の鋭い柱を生み出し露出した怪人の種に向けた。
ここまで癒着した状態でこれを放てば自身もタダでは済まないだろうと理解はしていたがソウルにはそんな事は些細な問題だった。
それがどうした。くたばれ。
心の中で呟きアイスソウルは躊躇いなく全力で己ごと氷で貫いた。
癒着に巻き込まれもがいていたレッドは弾かれるように地面に倒れ込み咳き込む。
そしてすぐさまアイスソウルに視線を移した。
先ほどまで襲いかかってきていたアイスソウルの怪人製のスーツは力を失いだらしなくドロドロと溶け出したようになっている。
そしてその中心に取り込まれかけた生気のないアイスソウルがいた。
レッドはアイスソウルに叫ぶ。
しかし激痛とひどい寒気の中にいるアイスソウルにはその声までは届いてはいなかった。
あぁ、これが死ぬ人間の感覚かとどこか他人事のような事を考える。
己を見つめるレッドの泣き顔を見てアイスソウルは自然と笑みを浮かべた。
あぁ、お前はやっぱりすぐ泣くな、俺がまだついててやらないと──
意識はそこで途切れた。
続く。
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リクエストが気持ち多めだったソウル奪還編です。
長い堕ち期間を経てやっとソウルが正気に戻るものの命は潰えかえていて…という話。当時はこのまま命を落とすのもありかとは思っていました。
ただ自分はご存じの通りハピエンが好きなのでね。現在の状況は大体皆さまの知る通りという所でございます。その後の展開の小説も別途アップ予定ですのでよければお付き合いください。
ちなみにアイスソウル奪還戦はヒバナ(DECO*27)という曲を聴きながら書いたのでもしよかったら聴いてみてください。歌詞とかリンクしててすきです。
奪還編はこう、王道にアニメで言えば第一期の一番盛り上がる所だろうなという感じがしてますね。ソウルの場合はその後がもっとも大変ですが…。
ここまでお付き合いいただき大感謝…✌
当時読んだ方も今初めて読んで詳細を知った方も改めて感想などあれば喜びます。
あと今後も再アップしていくので小説のリクエストあればどうぞ。
ちなみに今回当時に書いたVS堕ちソウルとレッドの絵をサムネに使いました。
アニメっぽい感じがしてて、好きな絵です。
Attachments (1)

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